「エビ中 秋麗と轡虫と音楽のこだま 題して『ちゅうおん』2020」がとても良かった話

読まなくてもいい前書き

2020年9月19日、「エビ中 秋麗と轡虫と音楽のこだま 題して『ちゅうおん』2020」の夜の部に参加して、およそ200日ぶりにライブを観ることができた。 

アイドルグループ・私立恵比寿中学による『ちゅうおん』と銘打たれた秩父の野外ステージで過去にも二度行われたこのライブは、「エビ中の楽曲の良さを改めて味わう」というテーマのもとに「着席指定・コール禁止・サイリウムなどの光り物禁止」というルールの中開催される、図らずも今の状況で開催できるとしたらこれしかないという形式のライブである。

しかも演奏はホーンセクションやストリングス等も加えたフルバンドセット。毎回楽曲のアレンジの違いや生演奏ならではの自由なパフォーマンスを観られるのが特色で、過去の公演が素晴らしかったこともあり開催が決まってから非常に楽しみにしていたし、それこそ久々のライブ参加ということで今回のライブに対するハードルがあり得ないほどめちゃくちゃに上がっていた。上がっていたのに、軽々とそこを超えるものを見せられたというか、今しか感じられないような感情を強く感じたので、何年ぶりだ?というテンションでいわゆるひとつのライブレポを書いてみようと思うのです。

ライブスタート〜前半

ライブはバンドメンバーが少しずつオンステージしながら、

ドラム&パーカッション→ギター&キーボード→ベース→ストリングス&ブラス→コーラス

と、徐々に音を重ねていくように演奏が始まる。この時点でエビ中メンバーがまだオンステージしていないのにベースの音が重なって来たあたりから涙腺が緩み始めていることに気がつく。「俺は、今、バンドの生演奏を、客席で聴いているんだ」という事実を噛み締めて、胸が熱くなっていた。

 

そしてメンバーがステージに立ち、満を持してTHE BOOMのカバー"風になりたい"でライブがスタートちゅうおんの一曲目は毎回カバー曲を全員で披露しており、今年も例に漏れずカバーからの開幕。冒頭のドラムとパーカスのフレーズからこの曲なんじゃないかなと思っていたので思わずニヤリ。

天国じゃなくても 楽園じゃなくても

あなたに会えた幸せ感じて 風になりたい

リリースから20年以上経っている誰もが知っている超有名曲。なのにこんなにも 「今日」のために存在していたかのように聞こえるのは、ただ有名なだけじゃない「名曲」の証。

何ひとついいこと なかったこの町に

涙降らす雲を つきぬけてみたい

図らずも当日は小雨が交じる厚い雲がかかる空模様。それすらも演出の一部に感じてしまう粋な選曲に並々ならぬ"チーム・私立恵比寿中学"の気合を感じた。

 

そして2曲目は安本彩花センター(?)曲の"君のままで"。そう、このライブはエビ中として久々の有観客でのライブであることと同時に、昨年の秋ツアーの途中から体調不良により無期限の活動停止期間に入っていた彼女が、復帰後初めてエビ中ファミリー(私立恵比寿中学のファンの呼称)*1を前にしてパフォーマンスをするライブでもあるのだ。*2そんなライブのエビ中楽曲一曲目であのギターのリフと彩ちゃんのフェイクが聞こえて来て、俺は胸がいっぱいになったけど、みんなは?

 

そのままのアッパーなテンションでオープンハイハットのカウントから"自由へ道連れ"。カバー曲ではあるものの、ご存知の通り椎名林檎トリビュート盤に収録されている楽曲でこれまでも何度もライブで披露され定番曲になりつつある一曲。だがしかし、今日は昨年末のバンド編成でのライブともまた違う同期一切なしの完全生演奏!コーラスを従えているとやはり演出の幅も広がりますなあ。Dメロのひなたパートの裏でスネアのフレーズに合わせてエアドラムをしていた私の推しであるところのぽーこと小林歌穂さんが尊かったです。(小並感)

 

そんなぽーちゃんがメインの"SHAKE! SHAKE!"ではファンキーな演奏に合わせて客席も大きなクラップや大きく手を振りステージ上のメンバーのパフォーマンスに応える。半年ちょっと前だったら当たり前だった、そんな何気ないこの光景の中に今自分がいる事実とその有難さに突然こみ上げてくるものがあって、アップテンポだし泣くような曲じゃないのにボロボロと涙を流してしまった。配信形式のライブも新しいエンターテインメントの形としてもちろん有効だけど、絶対にそれが元来のライブにとって代わるものになり得ることはないのだろうと改めて強く感じた一曲。

 

そんな両目がボロボロの状態を引きずったまま"誘惑したいや""感情電車"というたむらぱん名曲乱れ打ちコーナーに入ってしまったものだからこの辺りの記憶があまりないのはご愛嬌。そうだ、"感情電車"のDメロ終わりの「その空」がここに来てまた一段と伸びやかになっていて心に響いたよぽーちゃん。

 

と、ここでようやくメンバーは用意された椅子に着席し、しっとりとしたアレンジに変貌した最新楽曲"23回目のサマーナイト(ちゅうおん ver.)"を披露。先行で公開されたこの曲のMVがメンバーとの疑似デートが楽しめてしまうという内容だったこともあり、曲や歌詞が全く入ってこないと全オタクが頭を抱えていたことでお馴染みでしたが、改めて聴くとめちゃくちゃ美しいメロディですねこれ。

ライブ中盤ソロパート

さてここからはちゅうおん恒例のメンバーソロでのカバー曲披露のコーナー。まずは真山りかによるOfficial髭男dismの"ノーダウト"。ヒゲダンの高めのボーカルと低音がしっかり出る真山のボーカルが上手いことマッチしてて違和感なにそれおいしいの?って感じでした。キーもあまり変えてないのかな。

 

続いて俺たちの革命ガール星名美怜によるSuperflyの"タマシイレボリューション"。なんてチャレンジングな選曲…!と思いながらもしっかり歌い上げていて、エビ中全体の歌唱力の底上げは美怜ちゃんの成長とともにあるのだろうな、としみじみしておりました。この曲もクラップが楽しかった!

 

続くエビ中ボーカル番長柏木ひなたによるiriの"wonderland"。R&Bシンガーとして十分通用するのではと思うほどの力強さとリズム感でもはや「天晴」の一言。このテイストの楽曲を生バンドで聴けるのもまるでBillboardに来ているような贅沢さで、完全に引き込まれてしまいました。あとiriさんって、エビ中の最新アルバムに収録されてる"I'll be here"を提供された方なのね。

 

ソロコーナーも折り返し、安本彩花はきのこ帝国の"金木犀の夜"をカバー。きのこ帝国がアイドルにカバーされるような時代になったか…としみじみすると共に、少し鼻にかかるような彩ちゃんの声質により佐藤千亜妃とはまた違う切なさを感じておりました。秋の夜の野外で聴くというシチュエーションも相まってソロコーナーの中でも凄く印象に残った一曲。

 

そしていよいよ私の推しであるところの小林歌穂のターンが来たわけですが、選曲は中島みゆき"糸"今更あえて"糸"なのか!と思わんでもなかったけど、真紅のドレッシーなお衣装で優しく微笑みながらステージ上を練り歩くご様子に大御所感を感じずにはいられず、すわここはNHKホールかと思うばかり。しかしメンバーの中でも無二の声のキャラクターを持つ彼女ゆえ、低音域をさらに太く操れるようになってしまったらそれこそ中島みゆきばりに恐ろしいボーカリストになってしまうのでは…。

 

ソロコーナーラストは、メンバー随一のロックスター性を持つ(と私が勝手に言っている)中山莉子による、奥田民生"愛のために"!他のメンバーと比較してしまうとどうしてもボーカルの安定感はもう一つという感じなのだけど、表情筋を全力で使って歌を歌う彼女は毎回必ず僕らオーディエンスの心に何かを問答無用でぶっ刺してくれる。今回もステージ上をピョンピョンと跳ね回る可愛さを見せながら、ギラついた目で「僕ごのみのワールドオブワールド」を作り上げてしまった。ロックスター・リコナカヤマ最高。*3

ライブ後半

ソロコーナーも終わり"紅の詩"*4でライブも後半戦に突入。この曲はやっぱり生バンドの演奏が映えるし、さっきのロックスターの話じゃないけどラスサビのりったんパート

何故に返事をクレナイ?

油断して知らない歌で泣きそーうだ

が今日もギラギラしていて最高でした。そして立て続けに生バンドでは初めて?となる"バタフライエフェクト"で畳み掛ける。

 

アッパーな曲が続いて盛り上がるものの、ソロコーナー途中あたりから強くなってきた雨に濡れて少し体が冷えてきたので曲の合間に上着を着ようと鞄を探っていたところで、静かなアコギのアルペジオから"スターダストライト"が始まってしまったせいで完全に固まって上着を着るタイミングを失ってしまった。*5

いつだって僕ら手の鳴る方へ進んでいくから

この瞬間 どうか永遠に! 色褪せないで

9人編成時代の全編3人ずつのユニゾンが印象的だったこの曲が、スローなアレンジに乗せて一人ひとりがソロパートを取り丁寧に歌い上げられていく。星空をイメージした照明で作られたこの空間に、かつて「不安定な歌唱力」と自嘲していた彼女たちはもういない。まさしく「どうか永遠に」と思わずにいられなかったこの曲は間違いなくこの日のハイライト。

 

そんな雰囲気をそのまま引き継ぐように、生バンド編成のライブではお馴染みになったアコースティックなアレンジでの"まっすぐ"が始まる。個人的には原曲のアレンジが好きということもあって、原曲アレンジを生バンドで聴ける日は来ないのか…と少し肩を落としていたところ、2番からはフルバンドで原曲に近いアレンジ*6になって「そりそりそりそり!!!!」と脳内になにかが分泌されてたのを感じた。やはり"まっすぐ"は滋養強壮に効く。

 

「残り3曲、目と耳と心で忘れられないライブにしましょう!」という真山のMCを合図に聞き慣れないファンキーなカッティングのギターリフが始まり、あれこんな曲あったっけ?と混乱しているとその正体は"踊るロクデナシ"*7。初回の町田*8といい、前回のEBINOMICSといい、ちゅうおんで演奏されるメンバー紹介のソロ回しを挟む曲にハズレ無しの法則。着席しながら脳内では完全に爆踊りだったぜ。

 

そんな会場の熱量を少し落ち着かせるようなピアノの調べを挟んで、3声コーラスが美しい"星の数え方"がまさかのボサノバ調アレンジで披露。他のリアレンジとは逆の「重厚でシリアスなバラードが明るくポップになる」アプローチはなんとも新鮮。アレンジが軽くなったのでここまで引っ張らず前半で披露しても良かったのではと思ったりしつつも、なんだかんだ日が暮れてから演奏するべき曲だしなあと納得。

 

そしていよいよラストの一曲。安本復帰したし"HISTORY"か"ジャンプ"披露で大団円か?いやいやまさかの"オメカシ・フィーバー"で振り切って終わりか?とぐるぐる頭を巡らせる自分を笑い飛ばすかのように始まったのはまさかの"23回目のサマーナイト"おかわり。(笑)

アップテンポで歌詞の言葉数も多い曲なので、ちゅうおんでやるならしっとりしたアレンジにして前半あたりに配置かなと予想していたのが的中したせいでこの曲が来ることを全く予想していなかったことに加えて、"ちゅうおん ver."では言わなかった原曲通りのセリフパート「もう、この後どうするの!?」を彩ちゃんがくしゃくしゃの笑顔で言った瞬間に再び私の涙腺の堤防は無事為すすべもなく崩壊しました。マジでこの後どうすんだと頭を抱えたファミリーは俺だけじゃないはず。

「同じ曲2回やるなら他の曲演ってほしかった」などということは1秒たりとも思わず、この明るいアレンジで、メンバー同士で顔を見合わせながら笑顔で歌って踊る彼女たちを見て、周りから響くファミリーの手拍子に包まれて、ぐちゃぐちゃに泣きながら笑う幸せを噛み締めて、2020年のちゅうおんは幕を閉じたのでした。

 

 

「当たり前」が「当たり前」でなくなってしまって、とかく心がヒリつきがちなこの頃、やっぱり自分にとって「音楽」だったり「ライブ」というものがこんなにも心を豊かにしてくれるものだと改めて強く感じることができたライブだった。何が正解なのかなんてまだ誰もわからなくて、誰もが何かに必要以上に怯えて、結果何かを責めてしまうこともある状況で、「当たり前」を少しでも取り戻すために全力で取り組んでくれたスタッフ・関係者には本当に本当に感謝しかありません。皆さん本当にお疲れさまでした、ありがとうございます。

 

…それにしてもこんなに余韻に浸る程のライブを観た感じって久しぶりで、案の定熱量のままにレポートを書いたらご覧の有様になっちまいました。*9ということでここまで読んで頂いた皆様も本当にお疲れさまでした。それでは今日はこの辺で、ご機嫌よう。

*1:無論、この表記はナタリーリスペクト

*2:ライブパフォーマンスへの復帰は6月に配信イベントとして行われたやついいちろう主催の『ONLINE YATSUI FESTIVAL』

*3:彼女の歌うフジファブリックの"線香花火"が聴いてみたいけど、フジは一昨年"若者のすべて"をカバーしているので、次はエレカシの"俺たちの明日"かゴイステ"BABY BABY"あたり如何でしょうかキネオさん?

*4:そういえば全部同期なしで演奏してたけどこの曲の冒頭の笑い声だけはSEだったような。せっかくだしそこも生で笑って欲しかったなあ。

*5:ついでに冒頭でギターの演奏がちょっとだけつまづいて更にちょっとだけ緊張感が走った

*6:ややテンポダウンしてAメロのドラムのフレーズが少し間引かれてた

*7:当時現役高校生がエビ中に楽曲提供ということで話題となり、Mega Shinnosukeの名が一気に広まる要因になった楽曲

*8:買い物しようと町田へ

*9:ここまで約5500字