108の煩悩と底知れぬ欲望


街もとうとう年末ムード一色になってきた。
のっけから何をトチ狂ったんだこいつはと思われるかも知れないが、
とりあえず今は年末だということにしておいてもらいたい。たとえ今は残暑厳しい9月だとしても。
とにかく、今は年末なの。誰が何と言おうと年末!ということで今日は年末にまつわるお話。


僕は年末が嫌いだ。やれクリスマスだ、やれ年越しだと、なにかにつけてバカッポーを
ターゲットにしてるとしか思えないイベントで溢れかえってるからだ。いや、別に僻んでる訳じゃない。
そう、そこは勘違いしないでもらえるかな?そこまで寂しい男じゃ・・・ないんだ・・・よ?


まあ今でこそこんなひねくれた性格に育ってしまった僕ですが、
小学校の頃は純粋にそういったイベントは楽しんでいたわけですよ。
しかし何と言っても毎年一番楽しみにしていたのは年越し。
僕の友人に一人寺の息子の小林って奴がいたんですが、小学校五年生までは
そいつの家に深夜に集まって、深夜の墓場隠れんぼをいうなんともまあ罰当たりな
行事を経て、除夜の鐘を突き、新年を迎えるというのが僕の年越しのスタイルでした。


しかし小学校6年の二学期もそろそろ終わり、学校全体に冬休みムードが漂ってきたある日、
親友の須田がこんな話を僕に持ちかけてきました。


「なあ、今年の大晦日にエリちゃんの家で年越しパーティーやるんだけど、りゅーきも来ない?」


エリちゃんと言えば当時僕が淡い想いを寄せていた女の子。
めちゃくちゃ可愛い!ってわけではなかったけれど、何をするにも元気いっぱいの彼女には、
不思議と周りのみんなを引きつける魅力があり、僕とて例外ではありませんでした。


そんなエリちゃんの家で年越しパーティーがある!否が応でも僕の気持ちは盛り上がります。
しかし僕は、すでに毎年のノリで寺の息子と年越しを共にする約束していたのです。
しかも今年の目玉は例年から遙かにグレードアップしたモデルガンを使っての墓場サバゲー大会。
グレードアップしたのは罰当たり加減だと言うことは言うまでもないけど。
小林との友情を取るか・・・エリちゃんとの年越しを取るか・・・


「エリちゃんに楽しみにしてるって言っておいて!」


即答。そんなのエリちゃんを取るに決まっとろーもん。
こうしてその年の大晦日は、僕はめでたくエリちゃんの家で過ごすことが決定したのです。ヒャッホウ!
まぁ、これも定めと思って許せ小林。


終業式の日の放課後、クラスで当日の参加者合計7人が集まっての話し合いが行われました。
女性陣はエリちゃんを含む三人。男性陣は僕と須田を含む四人。
なんだか不吉な人数比ですが、事前に僕のネットワークを駆使して集めた情報によると、
男性陣四人中、須田を除いた三人がエリちゃんに想いを寄せていることが判明しました。やったね!


やってねぇよ。なんだこの構図。明らかにおかしいじゃねぇか。どう考えても修羅場だよ。
晦日エリちゃんの家が男と男の熱い火花がほとばしるプライドを賭けた戦場になることは間違いない。
「なんとしてもこいつらを出し抜かなくてはこの俺に明日、いや、来年はない・・・!」
などと勝手に他の二人を睨みつけていた時、須田が「プレゼント交換をやろう!」と
言い出したのです。最初はクリスマスでもあるまいしなんでプレゼント交換なんだよ?
と思っていたんですが、よくよく考えてみると、


プレゼント交換

僕が選んだセンスフルなプレゼントがエリちゃんの手に

りゅーき君素敵!!

( ゜Д゜)ウマー


いいじゃない、いいじゃない!これで僕の来年の夜明けも安泰って奴ですよ。
かつてこれほど希望を持って大晦日を迎えたことがあっただろうか。
これはなんとしてでも勝利をこの手にもぎ取るしかない!


と言うことで次の日僕は早速プレゼント交換用、というかもはやエリちゃんに
あげるためのプレゼントを買うために颯爽と街へと繰り出しました。
とはいったものの、生まれてこの方女の子にプレゼントなど買ったこともなく、
どんなものを買えばいいのかさっぱり分からない状態で、


「こ、こういうのが良いのかなぁ・・・?」


と言った具合に渋谷のスクランブル交差点で間違えて一歩踏み出してしまった、
上京したての若者のようにおどおどしながらも、どうにかピンクの小物入れを買うことに決めました。
そんなウブだった少年は今年、女友達へのプレゼントに「おふんどし」を笑顔で買える
青年にまで立派に成長しました。まあそんな話はおいといて。


そんなこんなで遂に大晦日当日になるわけですが、続きは後編で!予定は未定!!