乙女心と秋の空

 正直、君が俺のことをどう思ってるかなんてどうでもいいことだし、どんなに俺が君のことを考えたとしても、それは決して知ることの出来ない領域なんだ。

 だから君が姿を消した時でさえ、僕は自分を責めることはしなかった。すべては必然に基づいている。たとえ直接の引き金となった原因が、僕が昨日の晩君に吐いた悪意に満ちた憎まれ口だったとしても、僕は君のことをしったこっちゃない。

 それでもやっぱり君がいなくなったことによる喪失感を感じてしまう。きっとそれは僕の中にある女々しい部分が、君と過ごしたあの快適な日々を忘れられずにいるからなんだろう。強がっていながら、心のどこかではまた今までのような生活が帰ってくるのを望んでいたからなんだろう。

 帰りの電車から外を眺めてたら、君と良く走った道が雨に濡れて輝いてるのが見えた。台風が通り過ぎていった空は、不気味なくらいに美しい夕日の朱色に染まっていた。いつもの駅に降り立ち鼻孔いっぱいに僕の住む街の匂いをかいだら、何故だか小さい頃に行った海の香りがした。

 不意に視線を傾けると、階段の近くに倒れ込んでいる君がいた。それに気が付いた僕はそっと手を述べて君を起こし、体に付いたほこりを払いながらそっとこう言った。「家に、帰ろう・・」また、なんら今までと変わることのない生活が始まる予感がした。



 盗まれた自転車が戻ってきました。(見え透いたオチ